
はじめに
「感染症の天気予報」ができるとしたらどうでしょうか?
風邪やインフルエンザだけでなく、世界のどこかで新しい病気が流行したとき、その兆候をAIがいち早く察知し、広がり方まで予測してくれる──。
そんなSFのような仕組みを現実にしているのが、カナダ・トロント発のスタートアップ BlueDot(ブルードット) です。
BlueDot誕生の背景
創業者のカムラン・カーン医師は感染症専門医。2003年にSARSがカナダに持ち込まれた際、現場で大きな混乱を経験しました。「もしもっと早く情報が届いていたら、防げたはず」と痛感したことが、会社設立の原点です。
2013年にBlueDotを設立し、「AIで感染症を監視する」という挑戦をスタートしました。
どうやって病気を見つけるの?
BlueDotの強みは、AIによる情報収集と解析力。
- 世界65か国語のニュースやブログ
- 政府や公的機関の発表
- 動物の健康に関するレポート
- 学術論文やSNS
こうした膨大な情報を24時間体制で収集し、自然言語処理(NLP)で「感染症らしき出来事」を抽出します。
さらにユニークなのは、航空券の予約データや渡航データ。
「人がどこからどこへ移動しているか」をAIで分析することで、病気がどの都市に広がるかを予測できるのです。まさに感染症の“天気図”を描くような仕組みです。
COVID-19を世界で最初に警告
2019年12月、中国・武漢で原因不明の肺炎が報じられたとき、BlueDotのAIはすぐに異常を察知。
2019年12月31日には、顧客に「新しい感染症が広がる可能性がある」と通知を出しました。これは、WHOが公式に発表するよりも1週間以上早い対応でした。
さらに、航空データをもとに「ウイルスが最初に拡散する都市」として、バンコク、ソウル、台北、東京を正しく予測。のちに実際の感染拡大と一致し、世界中から注目を集めました。
どこで使われているの?
現在、BlueDotは各国の政府や自治体、企業にサービスを提供しています。
- アメリカ・シカゴ市の保健局は、市内の感染状況を監視するために導入
- 台湾のCDC(疾病管理署)は、国境を越えた感染情報の早期検知に利用
- 日本の国立国際医療研究センター(NCGM)とも提携し、データ共有を開始
民間では航空会社や大企業も利用し、従業員の安全管理やサプライチェーン対策に役立てています。
私たちに関係あるの?
一見すると遠い話のようですが、実は身近な生活とも関わっています。
たとえば「どの国に旅行に行くときに感染症リスクが高いか」「自分の都市で流行が起きる前に対策できるか」といった情報は、私たちの健康や行動を守るヒントになります。
COVID-19で世界が混乱した経験を考えると、1週間早く備えられるだけで社会的な影響は大きく変わると感じられるのではないでしょうか。
BlueDotが示す未来
BlueDotの挑戦は、単なる「感染症監視」ではありません。
AIとビッグデータを活用することで、これまで人間だけでは到底処理できなかった量の情報をリアルタイムに分析し、未来のリスクを予測する。これは、気象予報が生活に欠かせないように、「感染症予報」が当たり前になる時代を示しています。
まとめ
- BlueDotはカナダ発の感染症AIスタートアップ
- 世界中のニュースやSNS、航空データを解析して感染症を早期検知
- COVID-19をWHOより早く警告し、拡散先も正確に予測
- すでに各国政府や日本の医療機関も導入
- 将来は「感染症予報」が私たちの暮らしを守るインフラになるかもしれない
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