Metabiota創業者の物語|「ウイルスハンター」ネイサン・ウルフが挑んだ感染症リスクの数値化

新型コロナウイルスの流行以降、感染症は「医療だけの問題」ではなくなりました。旅行業、製造業、株式市場――社会全体が揺さぶられる中で、「感染症リスクを数値化」して保険や投資の世界に提供している企業があります。
それが、アメリカ発の Metabiota(メタバイオタ)
そしてこの企業を立ち上げたのが、「ウイルスハンター」と呼ばれた科学者 ネイサン・ウルフ博士 です。


目次

幼少期から研究者へ

ネイサン・ウルフはアメリカで生まれ育ち、幼少期から生物学に強い関心を持っていました。大学では生物学を専攻し、やがて スタンフォード大学でウイルス学を研究。彼の関心は、既知の病気ではなく、「これから人類に脅威をもたらすかもしれない未知のウイルス」に向かいました。


アフリカの熱帯雨林でウイルスを追う

博士は研究者として、アフリカや東南アジアの熱帯雨林に分け入り、野生動物と人間の接触から新しい病原体が生まれる瞬間を追跡しました。
そこで彼が注目したのは「ハンティングによる動物との接触」。ブッシュミート(野生動物の肉)の解体過程で、未知のウイルスが人間に“飛び火”するリスクがあると考えたのです。

この研究は「人類とウイルスの最前線を観察する」という新しいアプローチであり、世界中のメディアから「ウイルスハンター」と呼ばれるようになりました。


研究から社会実装へ ― Metabiotaの設立

しかし、ウイルスの存在を突き止めるだけでは十分ではありませんでした。
未知のウイルスを“学術的に知る”だけでは社会を守れない。感染症は突発的に拡がり、やがて経済や日常生活を大きく揺さぶる。そこで彼は2008年に Metabiota を創業します。

Metabiotaの目標は、単なる研究ではなく、感染症リスクをデータ化し、数値として社会に提供すること
公衆衛生の専門家だけでなく、保険会社や投資家が理解できる“リスクの言語”に翻訳することでした。


ネイサン・ウルフとMetabiotaの歩み(年表)

出来事
1970年ネイサン・ウルフ、アメリカに生まれる
1990年代スタンフォード大学でウイルス学を専攻。未知のウイルスに関心を深める
2000年代初頭アフリカ・東南アジアの熱帯雨林で研究活動。ブッシュミートからの新興ウイルスを追跡。「ウイルスハンター」と呼ばれる
2008年Metabiota創業(感染症リスクを数値化し社会に提供する試みを開始)
2009年〜米政府のPREDICTプロジェクトに参加。新興感染症の監視に従事
2011年著書『The Viral Storm』(邦訳『ウイルス・ハンター』)を出版。活動が広く知られる
2010年代Metabiotaが保険・金融業界(Munich Reなど)と連携。パンデミック保険を開発
2020年COVID-19パンデミック。感染症リスクを経済指標にという発想が注目される
2021年以降世界経済フォーラムなどで紹介され、感染症リスク分析の代表的企業の一つとして評価される
現在感染症を経済リスクに翻訳する先駆者的存在として議論を呼び続けている

パンデミック保険への挑戦

Metabiotaは再保険大手Munich Reなどと連携し、パンデミックを金融のリスク商品として扱う試みを始めました。
これは「地震保険や火災保険があるように、感染症にも保険をかけられる」という発想です。

この仕組みは賛否を呼びました。感染症の被害を金銭で扱うことへの倫理的議論もあったからです。
しかしCOVID-19が世界を襲ったとき、感染症が経済を直撃する現実を誰も否定できなくなりました。ウルフ博士の視点は、時代を先取りしていたのです。


書籍『ウイルス・ハンター』

博士は研究者としての経験を一般読者に伝えるため、著書『The Viral Storm(邦題:ウイルス・ハンター)』を出版しました。そこには、未知のウイルスがどのように人間社会へ侵入するか、そしてそれをどう防ぐかが描かれています。
この本をきっかけに、彼の活動は一般社会にも広く知られるようになりました。


評価と課題

Metabiotaは革新的な取り組みとして評価される一方、批判も受けています。
予測の精度やデータの透明性、さらには「感染症リスクを金融商品にしてよいのか?」という倫理的な問題です。
それでも博士の挑戦は、「研究成果を社会実装に繋げる」という意味で、多くの科学者に刺激を与えています。


まとめ ― 科学者から起業家へ

ネイサン・ウルフ博士は、未知のウイルスを追い求める研究者から、感染症リスクを数値化する起業家へと歩みを進めました。
Metabiotaは完璧ではないにせよ、「感染症は医療だけでなく経済の問題でもある」という視点を社会に提示しました。

彼の物語は、科学とビジネスをつなぐ挑戦の象徴です。そして、次のパンデミックが訪れたとき、その価値が再び問われることになるでしょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

医師として10年以上働きながら、2人の子どもを育てている母です。
医療の現場で働く中で、「このままの働き方をいつまで続けられるのか」と感じるようになりました。
同時に、AIやプログラミングが医療や社会を変えていく流れを感じて、
「もし私もこの波に乗れたら、何かが変わるかもしれない」と思うようになりました。このブログでは、AI・プログラミングの学び直し、医師としてのキャリア再構築、そして子育てと挑戦の両立という、日々の試行錯誤を記録していきます。
まだ“できた人”ではなく、“変わりたいと願う人”としての記録です。
私の迷いと実験の記録が、誰かの次の一歩のヒントになれば嬉しいです。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次